FAQ
ゲノム編集の概要等については下記、バイオステーションのFAQをご覧ください。
外部リンク
ゲノム編集技術に関する基礎知識
-
ゲノム編集技術は、人にとって有用な特徴(例えば、成長が速い、美味しい)に関わる遺伝子を狙って変化させることにより、品種改良のスピードを速め、これまで困難であった新品種の開発を可能にする技術です。
これまでの品種改良では、狙った遺伝子をピンポイントで変化させる技術がなかったため、目的とする特徴を持つ品種を作るために、とても長い時間と手間がかかっていました。
しかし、ゲノム編集技術の登場により、関係する遺伝子を特定した上で変化を起こすことが可能となり、優れた特徴を備えた農作物や養殖魚を効率的に作ることができるようになりました。
なお、ゲノム編集技術の詳細については、農林水産省のYouTubeチャンネルでわかりやすい動画が公開されているのでご覧ください。
-
ゲノム編集技術の基本は、生物が持つゲノムの中の特定の場所を切断することです。生物には切れた場所を元どおりに直す仕組みがありますが、まれに修復ミスで突然変異が起こります。
ゲノム編集技術では、この現象を利用するために目的とする性質の遺伝子をピンポイントで切断し、狙った変異を効果的に起こすことができます。
なお、遺伝子を切断するハサミのような役割を持つ人工酵素である「クリスパー・キャス9」は、遺伝子のピンポイントな調節を可能にしたことが世界的に高く評価され、2012年にノーベル化学賞を受賞しております。
-
日本で最初に実用化されたのは、高血圧の抑制やストレス緩和に効果があるアミノ酸の一つであるGABAを多く含むトマトです。次いで、可食部の割合を増やした肉付きの良いマダイと飼料の利用効率を向上させた高成長なトラフグやヒラメの届出が完了して流通が始まりました。
なお、家畜については、実用化まで到った例はまだありませんが、卵アレルギーを低減した卵を産む鶏の開発が進められています。
-
遺伝子組換え技術は、目的の性質を持つ遺伝子を他の生物から導入し、その遺伝子の働きを利用して新たな性質をもたらす品種改良技術です。例えば「青いバラ」は、遺伝子組換え技術によって、青い色素を作り出す遺伝子をパンジー(他の植物)から取り出し、導入することによって実現しました。
一方、ゲノム編集技術は、その生物が元々持つ遺伝子の働きを人為的に調整することにより、新たな性質を獲得する品種改良技術です。例えば「GABA高蓄積トマト」は、ゲノム編集技術によってトマトが元々持っているGABAの生成に関わる遺伝子の働きをピンポイントで調節し、GABAの含有量を高めるように作出されました。
このようにゲノム編集技術は、元々の遺伝子に対して、自然界で起こり得る突然変異を人為的に起こすものであり、他の生物から遺伝子を導入すると遺伝子組換え技術との大きな違いです。
ゲノム編集技術の意義と必要性
-
ゲノム編集技術を活用する大きな理由は、これまで長い時間と手間が必要であった品種改良をスピードアップできることです。
農作物や家畜では、人にとって有用な性質、例えば、成長が速い、美味しい、高収量などの特徴を持つ個体を見つけ、異なる品種を掛け合わせてより良い性質を持つ品種を作る「選抜育種」を繰り返してきました。その結果、世界各国で優れた改良品種が数多く作られ、世界の食料生産はそのほとんどが品種改良された農作物や家畜によって支えられています。
しかし、従来の選抜育種による品種改良では、目的とする性質を持つ個体を見つけ出し、その性質を後代へ受け継がせるために、交配や選抜を何度も繰り返す必要があり、一つの品種を作るのに十年単位の時間がかかることが大きな課題でした。そこで、遺伝子にピンポイントで変異を起こすことにより、目的の性質を持つ個体を2~3年程度で獲得できるゲノム編集技術が注目されています。
-
近年、情報の解析技術が向上したことによって、農林水産業においても様々なデータを用いた品種改良ができるようになりました。品種改良を効果的に進めるためのデータの取得と解析によって実現された効率的な育種の総称を「スマート育種」と呼んでいます。
本協議会は、特にゲノム解析を活用した品種改良に注目しており、既に「GABAを多く含むトマト」、「可食部が増えたマダイ」「成長が速くなったトラフグやヒラメ」などの品種が開発されております。
今後も従来の育種改良では難しかった新たな品種をより効率的に速く作出できるようになり、地球温暖化や世界的な人口増によってリスクが顕在化しつつある食料問題の解決に大きく貢献できる可能性があります。
-
ゲノム編集技術を活用した品種改良により、食の安定供給に貢献できると考えられます。昨今、地球温暖化や各国の政情不安などによって、食料の安定的な供給や確保が難しくなりつつありますが、新たな品種改良技術を用いて、例えば「高温耐性」を特徴とする農作物を作出することができれば、環境に適応した形で生産を確保できます。
これまでの品種改良技術では、一つの新品種を生み出すために植物では10年、動物では30年の時間が必要でした。
しかし、ゲノム編集技術を用いれば2~3年で新たな品種の作出が可能になり、食料の持続的な生産や栄養価を増強した食品、さらには、生産コストの低減による価格の安定など、消費者にとっても多くのメリットが期待されます。
食品としての安全性
-
ゲノム編集技術を用いて生産された食品の安全性は、まず開発した事業者において、目的以外の遺伝子に偶発的な変異が起きていないか、アレルギーの原因になり得る物質が新たに生成されていないか、食品として想定外の変化が起きていないかなどを確認します。
安全上の問題がないことを自社で確認した後、国が定めた通知「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」に従って、科学的データを添えて国に事前相談を申請します。国は専門家の意見を聴きながら食品安全上の問題がないかどうかを確認し、問題がないと判断された場合はその旨の連絡があり、当該事業者が通知で定められた様式を届け出てゲノム編集食品としての安全性の確認手続が完了します。
なお、この届出手続が完了したゲノム編集食品は、国のホームページで速やかに公表されるため、どなたでも閲覧することができます。
-
ゲノム編集で利用する人工酵素は、目的とする遺伝子に作用した後に細胞内で分解されるため、農作物や養殖魚の中に残ることはありません。
また、ゲノム編集食品等を国に届出する際には、専門家も交えた形で「外来遺伝子及びその一部の残存がないこと」が確認されております。
-
ゲノム編集は目的とする遺伝子の塩基配列(A、T、G、Cの並び方)を認識して作用します。そのため、目的以外の配列を持つ遺伝子に作用してしまう確率が低い技術です。
さらに、目的以外の遺伝子に変化が起きた場合に備え、本来目的とする配列と似た配列の有無を調べ、似た配列がある場合にはその配列に変異がないか、生体の組成が想定外の変化を起こしていないかについて確認しています。
-
米国、カナダ、オーストラリアなどの諸外国でもゲノム編集技術の可能性が注目されており、ゲノム編集技術を活用した品種改良が進められ、商用利用が既に始まっています。
例えば、米国では、オレイン酸(悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールは減少させない脂肪酸)を多く含む大豆や、辛みが少なく栄養素の多いリーフ野菜、暑さへの耐性が高いウシなどが開発されています。なお、EUではゲノム編集食品の流通は始まっていませんが、ゲノム編集技術の将来性を考慮し、市場化に関するルール作りが進められています。
食品表示
-
ゲノム編集食品の表示に関して消費者庁が定めた通知に則り、消費者が商品を手に取る際にゲノム編集食品であることがわかるように、パッケージに表示してあります。
例えば、以下のような形で食品としての表示項目(食品表示法が求める商品名、消費期限、原材料名など)に加えて、ゲノム編集技術を活用した品種であることがわかる表示を行っています。
環境への影響など
-
ゲノム編集技術による遺伝的な変異は、自然に起こり得る範囲であるため、在来品種との競合における優位性はありません。また、改良が進んだ品種は、人が用意した環境の下では能力を発揮しますが、自然環境の下では能力を十分に発揮できず生存すら難しくなります。
生物多様性への影響については、農林水産省が定めた通知「農林水産分野におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の生物多様性影響に関する情報提供等の具体的な手続について」に従って情報提供を行い、農林水産省は、専門家の意見を聴きながら、影響の有無を確認し、その結果をホームページで公表しています。
詳しくは農林水産省のホームページ「ゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供の手続」の後段に掲載されている「情報提供書が提出された農林水産物の一覧」をご覧ください。
-
ゲノム編集という新しい技術の仕組みや食品としての安全性について、皆様に理解していただけるよう、当協議会や開発事業者は、ホームページやメディアを通じた情報提供、さらには、関係者との勉強会や意見交換会に積極的に協力しています。今後もわかりやすい情報の提供や発信に取り組むことで、ゲノム編集技術に対する理解の醸成を進めて参ります。
なお、最新の育種技術などに関する情報サイトである「バイオステーション」では、ゲノム編集に関するわかりやすい解説を掲載しておりますしタイミングが合えば、専門家による「出前講座」の申込みを受け付けております。
ご興味のある方は、https://bio-sta.jp/ をご覧ください。