背景

人間は今日に至るまでに、様々な農作物の品種改良を行うことで、例えば、育ちがよくより美味しい品種を作ってきました。そのため今私たちが食べている作物は、大昔とは味も見た目も大きく異なるものが多いです。人は食べ物をより美味しく、より安定的に供給するために様々な工夫を凝らしてきたのです。

 
これまでの品種改良で扱われてきた技術の1つとして「交配育種」と呼ばれるものがあります。例として、甘いトマトと病気に強いトマトを交配させることで、それぞれの要素を併せ持った品種をつくることができます。この交配育種は、近世以降に活発に行われ、私たちの食生活の豊かさに大きく貢献してきました。しかし、この方法では世代が短いものでも5年程度、樹木などの世代が長いものでは10年から数十年の改良期間が必要でした。

 
近年私たちの食料や農業を取り巻く環境は、世界人口の急激な増加や地球規模の気候変動といった要因から、急激な変化を続けています。これに対応するためには、交配育種のような既存の方法に加えて、高効率な品種改良を可能とする新技術の利用が不可欠です。

 

スマート育種とは

近年情報解析技術が向上したことで、農林水産業において様々なデータを用いた品種改良が行えるようになりました。このようなデータ取得およびその解析に基づく効率的な育種の総称を「スマート育種」と呼びます。特に本協議会では以下で説明する、ゲノム解析に基づく品種改良を取り扱います。

 

生物にはそれぞれゲノムと呼ばれる、体の形を作る上での設計図のようなものを持っています。日常このゲノムは、紫外線などにさらされることで一部が損傷し、それを自己修復機能で治すということを繰り返していますが、まれに修復の際に元とは違う形に修復されることがあります。このように設計図の形が変わってしまうと、生物の特徴にも同様に変化が表れることがあります。これが「突然変異」と呼ばれる、自然界でもごく普通に起きている現象です。

 

ゲノム解析とは、それぞれの生物が持つゲノムを解読することで生物の体をつくる設計図の形を把握する技術です。これにより、これまでランダムに発生していた突然変異を狙った形で引き起こすことが出来るようになります。また、交配育種をはじめとした既存の品種改良技術と組み合わせることで高効率な品種改良が可能となり、現在進行形で拡大している人口増加を原因とした食料問題に対応できると期待されています。

 

日本では既にスマート育種技術を用いて開発された「GABAを多く含むトマト」「食べられる箇所が増えたマダイ」「成長が早くなったトラフグ」の3品種が確立していて、今後更に社会課題の解決に繋がるような新品種の開発が見込まれています。

 

※2022年12月時点